皆さん、昨年2月頃にわが国での感染拡大が始まった新型コロナウイルス(Covid-19)ですが、この原稿執筆の時点(2021年2月末)では、2度目の関西圏の緊急事態宣言が解除される予定です。これからワクチン接種が広まり、集団での免疫獲得が期待されるところです。
しかし、マスクやソーシャルディスタンスはまだまだ必要不可欠です。この習慣の徹底により、今シーズンのインフルエンザ患者数は、例年に比べてなんと1000分の1以下になっています。
今回の医療情報は、前回に引き続いて、新型コロナウイルスを取り上げます。このウイルスによる直接の健康障害は報道等でよく知られていますが、健康二次被害についてはあまり述べられていません。
昨年4月7日に1回目の緊急事態宣言が発出されました。特に4月から5月にかけて、医療機関での受診を控える方が多くなりました。
外出制限があり、また、その頃はPCR検査も十分ではなく、病院でのクラスター発生が多く報道されたため、受診を躊躇されたのだと思います。日本医師会による調査から、耳鼻科と小児科の受診が最も減少したことがわかっています。健康診断は、多くが先送りになったのではないかと思います。また、わたしが従事している循環器領域では、昨年5月には全国的にカテーテル治療は急を要する例のみに制限する動きがありました。しっかりと検証すべきなのは、「これらの健康診断を含めた受診控えが健康被害を及ぼさないか」という点です。高血圧や糖尿病で投薬中の方に関しては、オンライン診療という形で処方継続が可能であった例が多いと聞いています。投薬が途切れることになれば、大きな健康被害をもたらす可能性が高かったと思われます。
循環器領域で、頻度が多く急を要する疾患に、急性心筋梗塞があります。少なくとも近隣においては、急性心筋梗塞で搬送され、カテーテル治療を受ける患者さんの数は、例年と変わらなかったように思います。昨年の5月にカテーテル入院を延期した患者さんも、6月以降の検査や治療で問題はありませんでした。
しかし、欧米諸国はまったく異なります。イタリア、スペイン、アメリカ合衆国で、急性心筋梗塞患者数が例年に比べ半分ぐらいであったこと、また搬入された方はより重症で死亡率も高かったことが報告されています。外出制限によって急性心筋梗塞が激減するとは思えません。この事実は、急性心筋梗塞を発症しても緊急入院して治療を受けることができた率が半分であったと解釈されます。その証拠として、この期間に病院外での突然死が倍増したというデータがあります。急性心筋梗塞を発症しても入院できなければ、病院外で突然死を起こす危険性が高くなります。これこそ、医療崩壊というべき事態で、健康二次被害の顕著なものと認識されます。
日本では、このような事態は免れています。しかし、急性心筋梗塞のような結果がすぐに出るもの以外はどうでしょうか。わたしは例として、下肢閉塞性動脈硬化症を挙げたいと思います。この病気は、下肢の血管が動脈硬化で狭窄や閉塞を起こし、長時間歩くと大腿や下腿の痛みを生じ、重症になると下肢の潰瘍や壊死に対し、下肢切断も余儀なくされる疾病です。近隣の病院で、Covid-19感染拡大以来、この閉塞性動脈硬化症の検査や治療数が前年度に比べて半分以下に減少しました。外出制限でこの症状が出にくかったのかもしれません。病気の発症が減少していればよかったのですが、受診のタイミングが遅くなっただけのようで、2021年初頭から入院数が激増し、しかもより重症例が増加しています。Covid-19感染拡大による受診控えにより、病気の悪化が進んだ典型例ではないかと思います。
健康診断の遅れでは、高血圧や糖尿病といった血管病を引き起こす生活習慣病の発見が遅れます。生活指導で是正できる可能性が高かったのが、受診や治療が不可欠な状態になるかもしれません。また、がん検診の遅れも深刻な健康被害をもたらす可能性があります。消化器専門医から、例年なら初期のがんで紹介されるのが、Covid-19の影響で進行がんになり初めて発見されるケースが複数あると聞いています。
疾病の発見、治療開始の遅れは健康障害を引き起こす危険性があります。
健保組合では、健康診断およびその後の生活指導や重症化予防に関して、例年と変わらず万全の体制で行えるように準備を整えていますので、安心して受診してください。特定健診の目的は、高血圧、糖尿病といった生活習慣病を未然に防ぐことですが、Covid-19はこういった生活習慣病があるとかかりやすく、また病気の予後も悪いことが示されています。
繰り返しになりますが、重要なことは、マスクをする、手洗い、手指消毒、3密回避です。
基本を忠実に、明けない夜はありません。
2021年2月末寄稿