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嘱託医からのメッセージと医療情報

皆さん、COVID-19感染拡大の収束はいまだに見通すことができません。その中ではありますが、ワクチン接種が進み、高齢者の感染は確実に減少していると耳にします。ただし、変異株の懸念がありますので、引き続き感染防御をお願いします。


今回は、睡眠について取り上げてみたいと思います。と言いますのも、当健保組合加入者の健康に関する状況は、日本全国でも上位に評価されていますが、その中で睡眠は弱点として指摘されています。
「睡眠で休養が十分とれている?」の質問に「はい」と回答した率が、全組合平均では59.4%に対し、当組合では58.4%でした。
被保険者に限ると、全組合平均58.1%に対し、当組合では55.5%です。さらに経年的にみますと、被保険者では最近3年間の率が57.9→56.4→55.5%と低下しています。
シオノギにとって、睡眠は喫緊の課題です。

*健康スコアリングレポート2020年度版より

日本は睡眠不足大国

まず、睡眠に関する全世界(OECD)の調査では、国民の平均睡眠時間は我が国では7.37時間/日で、加盟国の中で最も短くなっています。アメリカ合衆国は8.75時間、イギリスは8.47時間です。
さらに、ウエアラブルデバイスのWITHINGS社の調査では、コロナ禍において各国ともリモートワークの推進により睡眠時間が増加傾向ですが、日本はコロナ前に比べわずか6分13秒しか増えていません。世界平均では9分50秒、アメリカ合衆国は8分19秒、イギリスは12分27秒の増加であり、ここでも日本の睡眠状況は最低ランクであることが示されています。
来日した諸外国の方は、我が国の電車の中で眠りこけるビジネスパーソンの姿を見て、驚愕するようです。公共の場の安全性が高いこともあるのでしょうが、日中に眠るということは、外国ではまず想像できないわけです。

睡眠不足になる原因としては、睡眠時間の不足と不眠症の2つがあります。各人の最適な睡眠時間は、遺伝子によって規定されると考えられています。中には、時計遺伝子の変異により、睡眠時間が短くても健康でいられる真性ショートスリーパーの方もいらっしゃいますが、かなり稀で、我が国の現役世代を考えると、ほとんどの方の最適な睡眠時間は6~8時間の間に収まるとされます。
十分な睡眠をとると、よほどのことがない限り、昼間に眠くなることはないとされます。ましてや、後天的に(いわば訓練をして)ショートスリーパーになることは不可能と考えられています。

睡眠の効果

睡眠には多くの目的があります。

  • 1.脳と身体に休息を与える
    深い睡眠では副交感神経が優位になり、血圧や心拍数も低下します。
  • 2.記憶を整理して定着させる
    脳はコンピューターのハードディスクに例えられ、容量があります。
    不要な記憶は、脳のハードディスクの修復(実際は神経細胞同士の接合を除去するらしい)のために消去されます。一方、何度も繰り返し練習した英単語のような、脳が重要とみなす接合だけが残り、記憶として深く情報が固定されるようです。
  • 3.ホルモンバランスを調整する
    成長ホルモンが分泌され、一方、ステロイドホルモンは低下します。
  • 4.免疫力を上げて病気を遠ざける
    免疫細胞が活性化し、また、夜間には環境的に病原体が侵入しにくいです。
  • 5.脳の老廃物を取る
    特に、アルツハイマー型認知症の原因であるアミロイドβの除去を行います。

人は目が覚めている間は、常に情報収集を余儀なくされています。起きているときに生じるコストが睡眠負債であり、睡眠することにより初めて精算されます。睡眠負債をいわゆる週末の寝だめだけで返済をするのは困難で、たとえば、毎日40分の睡眠負債を解消するのに約3週間かかることが知られています。

睡眠のステージ:レム睡眠とノンレム睡眠

睡眠にはいくつかのステージがあります。4段階に詳しく分けられるようですが、まず知っていただきたいのがレム睡眠とノンレム睡眠です。レム(REM)は、急速眼球運動 (rapid eye movement)の頭文字をとったもので、文字通り眠ってはいるが眼球が動いている状態で、ノンレム睡眠はREMではない睡眠をいいます。
わたしたちが、夜眠りにつくと短時間で最も深いノンレム睡眠に入ります。睡眠研究の世界的権威である西野精治博士(米国スタンフォード大学)は、この約90分間の第一周期目のノンレム睡眠を”黄金“とよび、睡眠の質を決定するといわれています。最初90分のノンレム睡眠で、成長ホルモンの70~80%が分泌され、身体の修復や再生をもたらすといいます。ノンレムとレム睡眠は交互に起こり、1つのサイクルが90~120分とされます。ノンレム睡眠のほうが、睡眠は深く、寝始めに長く次第に短くなります。
一方、レム睡眠はその逆で、睡眠の後半に多くなります。レム睡眠の夢はストーリーがあって実体験に近く、覚醒したときの夢の記憶は最後のレム睡眠でのものです。

睡眠不足が招く健康障害

睡眠不足が心身に及ぼす影響は多岐に渡ります。
1つは、メタボリックシンドロームです。睡眠時間が7時間未満の人は、7~8時間の人と比べると、肥満になるリスクが50%上昇するとの報告があります。徹夜をすると、より大きなサイズの食事を選ぶ、という実験結果があります。睡眠不足では、食欲増進ホルモンであるグレリンの分泌が増えること、また明け方に減少するはずの満腹ホルモンのレプチンが減らないことなどが原因とされています。
ほかに、睡眠不足でアルツハイマー病を発症するリスクが増えるとの報告があります。先に述べた睡眠の効果であるアミロイドβの処理が、不十分であることに起因するようです。
また、免疫力の低下により感染症にかかりやすくなります。直接的に病気を引き起こす以外に、だれでも経験したことがある睡眠不足での生産性の低下は、証明されています。アメリカのシンクタンクによると、日本人の睡眠不足による経済的な社会損失は日本円で年間約15兆円、対GDP比3%になるといわれています。

対処法

まず、睡眠は量よりも質が大切です。入眠後90分の熟睡ノンレム睡眠を大切にしましょう。スムーズな入眠のためには、体温と脳が重要になります。入眠には深部体温と皮膚温度の差が縮まっていることが大切で、その点からは就寝90分前の入浴がベストのようです。カフェインは就寝4時間前まで、また寝室は暗くすること。スマホやタブレットなどのブルーライトは太陽光と似ているため、就寝前に浴びると睡眠時間が後ろにずれるようです。
睡眠は、朝起きてから寝るまでの行動の産物ともいいます。朝にできれば太陽光を浴びて、時計遺伝子を活性化し、活動的な行動をすると、夜になるにつれ睡眠に向けて身体が準備されます。
睡眠負債があれば、睡眠時間を少しずつ増やしましょう。昼寝については、20分以内であればリフレッシュ効果が期待されますが、1時間以上寝るとかえって健康にはマイナスであるとの報告があります。
また、睡眠障害を起こす睡眠時無呼吸や不眠症に心当たりがあれば、必ず医師に相談してください。

まとめ

睡眠は、食事と同様に、毎日必ず行う習慣であり、健康に直結します。
総じて、睡眠の研究者は、とにかく眠気を感じたら、なにをおいても眠ることが重要と述べています。
睡眠に関する健康情報は、これからもどうぞ注目してください。

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