嘱託医 就任のご挨拶

皆さんはじめまして。秋岡 壽と申します。
2022年7月から嘱託医に就きました。
これからは健康保険組合が取り組む、組合員皆さんの健康保持、疾病予防、健康寿命の延伸などの種々の活動に参加し、現在治療中の方々についても、その治療・改善のため支援や重症化予防を目指して努力したいと思います。
宜しくお願い致します。
(内科学が主科で、循環器病および老年病専門医です。趣味は旅、読書(新書)です)

あなたの血圧は適切ですか?

今回は、高血圧症について考えてみましょう

高血圧症(収縮期血圧140以上/拡張期血圧90以上)の人は、全国で4,300万人(2019年度)いるとされています。
その中で、適切な血圧管理状況にある人は、驚くことに4分の1(27%)に過ぎません。管理状況の悪い方が26%、未治療の人は11%です。
そして驚くことに、高血圧への認知の低い人が33%もいます(2019年高血圧症治療ガイドライン)。

世界先進主要国12カ国の中でも、高血圧管理状況の良い国のランク付けで我が国は、下から2番目の位置付けです。
これには、治療する側にもイナーシャ(inertia:慣性、惰性)のあることが考えられています。
すなわち、明らかに高血圧症であるのに治療をしない、治療ガイドラインが活かされていない、現在の治療を強化しない(診療所血圧も家庭血圧も基準値より少し高いが症状もないし、薬を増やすのも躊躇う)など、そして治療しているけれどなかなか良いところまで血圧が下がらない(治療抵抗性)、あるいは難治性の高血圧についてさらに原因を追求、精査をしない、などがあると指摘されています。

高血圧症の人の好ましい血圧目標値は、どうなっているのでしょうか

主たる心血管病の発症を抑える臨床研究では、降圧目標値についての解析や実際に到達した血圧値についての解析でも、収縮期血圧130/拡張期血圧80未満がよいと推奨されています(Sakajima:2019)。

積極的に血圧を下げる方が良いのでしょうか

最近、中国でのSTEP* という研究が権威ある雑誌に出ています。
この研究では、8,511人(年齢60~80歳:平均66歳)の高血圧症(収縮期血圧140-190mmHg)の群を通常降圧群と厳格降圧群の2つに分けて、脳卒中・心筋梗塞などの発症を最終目標に3.34年間観察し、積極的降圧の有効性を解析しています。
結果は、通常降圧群(130-150mmHg)に比べて厳格降圧群(110-130mmHg)で心血管イベントを26%抑制したと報告されました。脳卒中は33%、そして急性冠症候群は33%の減少がみられました(Zhang.W:N.Engl.J.M:2021)。
*Strategy of blood pressure intervention in the hypertensive patients

現在の日本の高齢者の総人口に占める割合は29%ですが、2040年には40%以上になると思われます

MRI(磁気共鳴映像法)は、最近では普通に行われる画像検査ですが、その脳のMRIで頻繁に無症候性脳血管障害が見つかっています。症状は、自覚的、他覚的にはみられませんが、脳の細かい血管の虚血(酸素不足)や微小梗塞の状態などが考えられています。
無症候性脳血管障害は、認知機能の低下、認知症の発症、うつ症の発症と関連性があると指摘されています(Smith EE:2019)。また、将来の脳卒中の高いリスクでもあります(Mozafferian 2019)。
高血圧は、無症候性脳血管障害の最も高いリスクの1つです。
高血圧の数値に基づく脳血管障害の発症は、その半数が軽症高血圧から発症していることが分かっています。より確実な血圧管理が必要でしょう。

自宅血圧を測りましょう

起床時、そして色々と忙しかった仕事の終わり、日常と違った気分のあるとき、めまい、頭痛、耳鳴りなど変だなと思う症状のある時などでは臨時に血圧を測りましょう。そして記録してください。
診療所での血圧が高くても、自宅での血圧が安定していれば、多くの場合、安心できます。絶えず血圧は変動しています。ご自分の血圧の動きを知ることも大切なことです。

健康寿命の延伸のために、脳卒中、心筋梗塞など循環器病の発症を抑えることは、とても大切なことです。健診データをしっかり、詳しく見てください。
疑問な点は、かかりつけ医や場合によっては、産業医にお尋ねください。

重症化予防のために、会社、健保組合は様々な取り組みをしています。
放置せず、ご自身の健康を護りましょう。結果は、将来にきっと良い形で出てきます。

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